アカデミー助演女優賞にノミネートされた菊池凛子で前評判をよんだ『バベル』を観た。
監督・製作:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ/製作:スティーブ・ゴリン、ジョン・キリク
/脚本:ギジェルモ・アリアガ/撮影:ロドリゴ・プリエト/出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、役所広司、菊地凛子、アドリアナ・バラッサ、二階堂智、エル・ファニング/2006年アメリカ=メキシコ合作/2時間22分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
で、感想――
私は楽しめた。あくまで『私は』だが。
予告編の印象では、一丁の銃を通して国や言葉や生活も違う人間達が、あたかもミステリードラマかのように『点と線』でひとつに結ばれてゆく巧みな構成の人間ドラマかのようだったが、実際は、監督の感性がかなり前面に出た良くも悪くも文芸路線な映画だった。(地味な映画だから、どうやら予告編で煽りやがったようだ)。 だから少しでもエンターテインメントを期待し受動的なスタンスで観てしまうとかなり疲れるかも。(私はこのテの作品には基礎体力があるから平気だったが…) あと、同時進行する複数の人間ドラマもどちらかというとオムニバス色が濃く、それらがひとつに繋がることはない。ただ、『心で繋がることの難しさ』というテーマの部分においてはひとつに繋がっているという感じか。
しかし、菊池凛子の演技は見事だったなぁ。まさかあそこまでやるとは思ってもみなかったので、正直驚きました。(女優魂を感じます) あと、メキシコ人の不法労働者役のアドリアナ・バラッザも菊池凛子と同じくアカデミー助演女優賞にノミネートされただけあって見事な演技だった。
まぁ、全体的な構成力や人物の説明においては賛否両論ありそうだが、それより役者たちの演技が見事だったので(役所広司はちょっと浮いてたかな)、それを観るだけでも価値ある作品だと思う。
あと、この映画のテーマが『人が繋がることの難しさ』のせいか、全体的に『ブルーな気分』になってしまうシーンが多いが、それでも『繋がり合えるんだ』と思わせるシーンもちょこちょこと挿入させているところ(ラストがその集結だが)が作品を観終わった後に希望を感じさせる。(そんな中で私はラストシーンよりも、ブラピが、彼から金をうけとろうとしないトルコ人の通訳に対して少し驚くシーンが何故か気に入っている。)
おもしろい、つまらない以前に『良い映画』でした。
【追記1】チエコが刑事に渡した手紙の内容が気になるなぁ……。あの文面は映画を観た客の数だけ違った内容になるんだろうか。
【追記2】観終わった後、ラストシーンの意味を考えていたのだが、あれは監督が現代の啓示的シーンを作りたかったんじゃないのかな? そう解釈すれば、あのラストシーンも、救われぬ人間同士が神の罰を克服して通じ合えたという、まるで旧約聖書の一節に出てきそうな雰囲気がしなくもない。それも現代のバベルの塔の頂上で……。、(監督、クリスチャンなんだろうなぁ。)
【追記3】この映画を観ながら、ヒマさえあればケータイで繋がろうとする現代人を連想したなぁ。いや、深い意味はないけどね……。