11年ぶりの周防監督の新作『それでもボクはやっていない』を観ました。


監督・脚本:周防正行/エグゼクティブプロデューサー:桝井省志/撮影:栢野直樹/音楽:周防義和/出演:加瀬亮、瀬戸朝香、山本耕史、もたいまさこ、役所広司/2006年日本映画/2時間23分/配給:東宝


で、感想――


こんな映画、観たことないよ! いやぁ~、とにかくおもしろかった!


内容は痴漢に間違えられ逮捕された主人公が冤罪をはらすために、友人や弁護士の協力を得ながら裁判に挑む――と、いうものですが、その演出がドキュメンタリーのように淡々と描かれているのに、序破急ある娯楽作品としてのエンターテイメント性をもしっかりと感じさせるところは『お見事!』としか言い様がありません。正直、こんな邦画は初めて観ましたよ。昔、故伊丹十三監督も社会派なテーマ+エンタメな作品を残されましたが、それらとはまた違うテイストを感じます。


さて、この作品は日本の司法や警察の制度に対して疑問を投げかける硬派な社会派ドラマですが、周防監督が11年もかけて準備しただけあって、次から次とドラマの中で語られる事実は驚きの連続で思わず息を呑んでしまいます。そして観終わった後に、私はなんとも言えない『恐怖』を感じてしまいました。もちろん、この場合の『恐怖』とはホラーのような恐怖ではなく、今の日本の裁判や警察の制度が『正義』ではなく『システム』をベースに動いていて、『正義や真実は必ず勝つ!』という信念は幻想にすぎないという、『そ、そんなぁ……ウ、ウソだぁ~っ!!』的現実に対しての恐怖です。


裁判官が『真実を見抜ぬける超人』でもなければ『正義という精神の具現者』でもなく、『どっちの証拠が説得力があるか? どっちの供述が人間ドラマとして合理性があるか? を天秤にかけるただの専門家』であるという事実は、冷静に考えれば当たり前といえば当たり前なのですが、改めてこういう映像作品でそのぼんやりとした『当たり前』の輪郭をはっきりと観せつけられると、何とも言えない無常観を感じてしまいます。


『自分の身を守れるは、自分しかいない』


――ということでしょうかね。甘えては生きてゆけません。正義の味方はフィクションの中にしか住んでいないようです。


とにかくおもしろい! 役者人も周防作品のお馴染みメンバーで楽しめます。ラストのセリフは不思議なカタルシスを感じさせます。お奨めの1本です!

投稿者 mori-game

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