小林秀雄賞を受賞した、茂木健一郎氏による『脳と仮想』を読んだ。
で、感想――
なかなかおもしろかった。著者の茂木氏は『クオリア』(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係、つまり『心の哲学』を研究されている脳科学者だ。
この本で氏は、昨今の科学がその論理性を用いて心の領域までを語ろうとしていることに対して疑問を投げかけている。そして、『数量化できない微妙な物質の質感』をクオリアと名づけ、科学的論理性だけでは片付けられない『意識』の問題に切り込んでいる。
タイトルの印象とは異なり本の内容は明快で非常に分かり易い。特に人間の意識が『現実』を現実とたらしめている要素のほとんどが、クオリアと伴に発生する『仮想』であるという主張はおもしろく共感できる。たしかに、私と他人が同じ現実の場にいたとしても、私が認識する現実と、他人が認識する現実が同じであるという確証はなにもないわけで。
特に、この本の中で私がおもしろく思えたのは、テレビゲームにおける現実と仮想の問題に言及していた個所。一見、ゲームの世界とは関係ない脳科学者が語るゲーム論は、ヘタなゲーム研究家よりゲームの本質の的を射て、すこぶる明瞭である。
なにが『現実』で、なにが『仮想』なのか? なにが『脳』で、なにが『心』なのか? 心は脳組織がつくりあげる単なる電子情報の反映だけなのか? こんなことに興味のある方には是非お奨めしたい良書である。