『ゲド戦記』を観た。
英題:Tales from Earthsea /監督:宮崎吾朗/脚本:宮崎吾朗、丹羽圭子/製作:鈴木敏夫/音楽:寺嶋民哉/声の出演:岡田准一、菅原文太、手嶌葵、風吹ジュン、小林薫、夏川結衣、田中裕子/2006年日本映画/1時間55分/配給:東宝
で、感想――
前評判では、かなり叩かれていたようだが、私的にはOKだった。
ただ、そのOKの意味は『作品のデキ』に対してではなく、監督の宮崎吾郎氏の『素直』さに対してだ。それは彼がこの作品を監督するにあたり『オヤジの七光り』、『オヤジのマネ』という厳しい非難を受けることは百も承知だったはずなのに、あえて、父親である宮崎駿氏の技法を、まるで徒弟制度で師匠の技を盗んで引き継いでゆく弟子のように使っていた、その愚直なまでの『素直さ』に対してだ。
あと、私はこの作品を観ながら『これって、宮崎吾郎という、いち宮崎アニメファンによる宮崎アニメのオマージュ的作品なのかも』とも感じた。つまり、宮崎アニメのファンが宮崎アニメに対して一方的に感じていた『宮崎アニメを宮崎アニメたらしてめている要素』を代弁した映画なのでは?と。そういう風に視点を変えてこの作品を観てみると別のおもしろさが発見できる。(邪道な見方だけどね)
いずれにしても、私がこの作品に対してOKだと感じている点は、あくまで作品の外枠の部分であり、作品の中身(完成度)に対しては苦言ながら『NO』と言わざる得ない。ましてや『ジブリ』という今や世界的な名ブランドから発表する作品だ。おのずと作品に対する期待や評価のハードルが高くなるのは仕方がない。『いわんや、新人の吾郎氏をや』だ。
ただ、個人的な趣味だが、私はこの作品のような淡々とした展開は嫌いではない。まぁ、それは多分に演出力のなさが生んだ淡々さだと思うが、もともと私は『ロードムービー』が大好きで、己の想像力で補完せねばならない淡々とした演出には免疫があったので、このゲドはたいくつではなかった。(あと、観念的な抽象表現もOKだし) ちなみに吾郎氏とシナリオを共同作成した丹羽圭子という方を調べたら『海がきこえる』を書いたシナリオライターだそうだ。『海がきこえる』は観たことがあるが、なんか淡々としたシナリオだったな。う~む……もしかしてゲドの淡々さは……?
絵のクオリティーはいつものジブリ作品に比べれば、どちらかというとシンプルだったが、動きはあいかわらずよかった。ジブリの優秀なアニメーター陣ががっちりと脇を固めたというところか。あと背景を絵画タッチ(ブリューゲル風?)にしたところは想像的で良かったが、ただ、でかいスクリーンで観るとタッチが拡大されて荒っぽくみえてしまうところが、ちょっと残念だった。
『ゲド戦記』――技術的、作品的には問題多々の宮崎吾郎氏によるデビュー作品だったが、彼が師と思っている?宮崎駿氏の『心』を本気で引き継いで行こうとしているのなら、この作品の中のアレンのように本気でレバンネンになる気があるのなら、彼の次回作には期待したい。