村上龍の新作『盾(シールド)』を読みました。


シールド(盾)

シールド(盾)



  • 作者: 村上 龍
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2006/03/24
  • メディア: 大型本


『盾(シールド)』とは、ふたりの男の生き様を通して、心の中心部にあるやわからかく傷つき易いものを守る為に人は皆それぞれいろんなやり方の『盾』をもっているのでは? という村上龍なりの仮説をもとに書かれた絵本形式の作品です。


で、感想――


読んでみて、なんかグッとくるものがありました。というのが、この物語の二人の主人公のひとりである『コジマ』の若い頃の苦悩が自分によく似ていたということと、もうひとりの主人公である『キジマ』の中年時代の心情が嫌というほど理解できシンパシーを感じられたからです。


小学生~中学生の頃は親や教師に誉められ、成績良く、いい子でいることに自分の盾を見出すものの、高校生になりそれが崩壊することによって自分を見失い始めるコジマ。企業という組織の中での多忙と出世に自分の盾を見出すものの、企業からリストラされて盾を失い自分を見失ってしまうキジマ。己の心のコアを守る盾の必要性と同時にそれに依存することの危険性を問うた物語は、私だけではなくどんな人もシンパシーを感じられるのではないかと思いました。


村上龍の以前の作品である『共生虫』や『13歳のハローワーク』、そして今回の『盾』を読んでみて感じるのは、大人達は若者に対して精神論の為の精神論をたれる暇があったら、彼らの等身大の心の声に耳を傾けそれに形として答えてあげた方がずっと生産的だ、というスタンスです。


今回の『盾』も正直かなり難しいテーマをあつかった作品だと思います。でも、難しくても避けては通れない心の問題なら語ろう。かといって、一部のインテリしか理解できない難解なものにするつもりはない。ならば、もっと誰もがとっつき易い表現形式にしよう――ということで彼は『絵本』という方法を選んだのかもしれません。なかなか良い本でした。私はこういうスタンスの本は好きです。以下は本の最後に書かれた村上龍のコメントからの引用です。


この絵本のテーマは、官庁、企業に代表される集団用の盾にたよるのは危険だからやめて、個人用の盾を獲得すればいいというような単純なものではありません。ただしどのような盾を選ぶにしろ、それに依存するのは危険です。いずれにせよ盾はとてもたいせつなものを象徴しています。自分はどんな盾を持っているのか、あるいは持とうとしているのか、読者の皆さんが考えるヒントをこの絵本で得ることができればと思います。

投稿者 mori-game

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