昨日の夕方のこと。近所の人気のない川沿いの遊歩道(土手の道)をジョギングしていると、道の真中に一台の自転車が倒れていた。「邪魔だなぁ…」とそれを避けながら、何気に遊歩道から一段低くなった処にある茂みに目を下ろすと、なんと一人の老人(男)が顔面蒼白になってひっくり返っていた。どうやら乗っていた自転車ごとこけて茂みに転げ落ちたようだ。
「大丈夫ですか!?」と声をかけるが、老人は口をパクパクしながら倒れたままだ。道から降り、老人のもとへ近づき再度大丈夫かと訊いてみると「だ…だいじょうぶです…」とボソリ答えた。どうやら怪我はなかったようだが歳のせいか足腰が弱っているようで茂みの中から自力で立ち上がれないらしい。仕方がないので担ぎ上げるようにして老人を立たせ、遊歩道まで戻るのを手伝ってやった。ここの遊歩道はほとんど人気がない。夕方に犬と散歩をするわずかの人たちが通る程度だ。もし、誰からも気付かれず、あのままだったら…と、余計な妄想をして少しゾッとしてしまった。「気をつけてくださいね」と注意を促してやると「ああ… すんません…」と老人は何処を見るでもない放心状態な目つきで答えた。さすがに懲りたのか老人は自転車に乗ろうとはせず、それを押しながらトボトボと歩き始めた。その足元はおぼつかない。失礼な言い方だとは思うが”かなりヨボヨボな”感じだった。あと、服装もお世辞にも身奇麗とは言えず、決して恵まれた老後をすごしている風には見えなかった。それは再びジョギングに戻ろうとした私に訊いた「シルバーセンターは…どこですかね…?」という、どことなく寂しげな口調の質問からも想像できた。
ジョギングを再開し、いつもの折り返し地点で軽く体をほぐし、再びもと来た道を戻った。ふと、あの老人のことが心配になってきた。「まさか、またひっくり返って茂みの中に倒れていないだろな?」 私は注意深く傍らの茂みをチェックしながら走りつづけた。当然ながら老人はどこにも倒れていなかった。「我ながら心配性なヤローだな」と、己に対して苦笑した。
――老後が気になる歳になった文鳥