新年になって1週間たつが、やはり映画を観ないとどうにも調子が上がらない。――と、いうことで観にいった。まずは、去年から観たかった『武士の一分』を。
監督:山田洋次/脚本:山本一郎、平松恵美子、山田洋次/原作:藤沢周平/撮影:長沼六男/音楽:冨田勲/出演:木村拓哉、檀れい、笹野高史、桃井かおり、大地康雄、緒形拳、坂東三津五郎/006年日本映画/2時間1分/配給:松竹
で、感想――
う~ん、なんて丁寧な映画なんだ。画面から古き良き日本の、穏やかな時間と空気、そして四季の移ろいが感じられ、物語に独特のリアリズムを感じさせた。
原作は藤沢周平の『隠し剣 秋風抄』に収められている『盲目剣谺返し』。原作は割とあっさりした短編だが、その短編をうまく膨らまし叙情豊かに、そして普通に生きる武士というものを丁寧に描いていた。
巷では木村拓哉の演技がなんたらという評価があるようだが、私はあまり気にならなかった。(ちょっとキムタクなアドリブは余計だったが…)それより、山田洋次監督の映像に対するこだわりがすばらしい。彼の作品に共通しているのは、何気ない風景や、役のないその他の大勢の人々にも、手を抜かずきちんと生活や季節を描いていることだ。春のウグイスのサエズリから物語が始まり、初夏のカエルの鳴き声、風、夏の暑さに吹き出る登場人物の汗、まとわりつく蚊、雷鳴、ほたる、落ち葉、木枯らし、そして冬の気配……と、物語のバックにも静かな四季の移ろいが丁寧に描かれている。そして匠なのは、物語の起承転結を四季のイメージとシンクロさせているところだ。当然、物語は春の気配を感じながら、たおやかに終わる。
知人のライター・さいさい@百鬼さんから『黒沢明のリアリズム(補:時代劇に関して)を引く継ぐのは、山田洋次ではないか?』という意見を聞いたことがあるが、それ、あたり!だと思う。ラストシーンの果し合いは、原作の持ち味を生かし、あっさりとしながらもかなりリアルで観ているほうも思わず緊張する。あの名作、椿三十朗のラストシーンを連想させるぐらいだ。キムタク…じゃなく、木村拓哉も昔剣道をやってたせいか、剣の振りに勢いがあってなかなか良い。
今日行った映画館の客層だが、題材のせいか若い人はパラパラでほとんどが年配だった(俺も含めて)。そのせいかラストシーンはすこぶるシンプルなのに、年配にしか分からない夫婦愛を感じてか、あちこちですすり泣く声が聞こえた。
しかし、観ていて『日本ってよい国だったんだろうなぁ……(過去形かい)』と、妄想してしまった。多分、それを観客に感じてもらうのが山田洋次監督の狙いかもしれないけど。なんか、明日から着物なんか着て『たおやかな日本』をやりたくなりましたよ。
【追記】加世を演じた壇れいの演技も良かったが、私は徳兵衛を演じる笹野高史が気に入った。いい役者だ。