評判が良くないということは百も承知で「日本沈没」を観た。なんか最近、評判が良くない映画をあえて観に行ってるな、俺。
「日本沈没」/監督:樋口真嗣/脚本:加藤正人/原作:小松左京/撮影:河津太郎/音楽:岩代太郎/出演:草なぎ剛、柴咲コウ、豊川悦司、國村隼、石坂浩二、大地真央/2006年日本映画/2時間15分
*写真はeiga.comから。決して「弁護士のくず」の写真ではありません。
で、感想―― (はい。今回も辛口です(笑))
ネットの掲示板で「さよならジュピターみたいだ!」という究極の批判を見た為、かなりの心の準備をして観たせいもあってか、想像したほど悪くは感じなかった。(どんな想像をしていたかは言わずもがな) あと、昔の日本沈没と比較する気は全くなかったので、その分素直に観れた。
結論から言えば、この映画も前回のブレイブと同じく、脚本、構成がボロボロという感じか。そのせいでキャラの誰にも感情移入できなかったということもさることながら、最大の欠点は、日本列島がとんでもない状態になっているというのに、そこに住んでいる国民の「痛みと悲しみ」が全く伝わってこないところだ。つまり、カットバックで入る日本列島の惨状とそこに住んでいるはずの国民のドラマが全く分離しているのだ。
多分、この映画に期待して観に来た客(私を含めて)のほとんどは、この映画の世界の中で起こる日本沈没という超大災害を擬似体験したかったはずだ。その為には登場するキャラに感情移入するしかない。しかし、その感情移入すべきキャラがいないのだ。だから、ちっとも作品世界の中に入っていけない。結果、つぎはぎの映像をだらだらと見せられている感じがしてしまうのだ。
【追記】恋愛ドラマは余計だった、という意見もあるが、私は必ずしもそうは思わない。問題はその恋愛の「描き方」がまずかったのだと思う。
あと、私はこの映画を観ながら、ずっと不思議に思っていたことがあった。それは「樋口さんともあろうものが、なんであんな初歩的演出ミスを犯してしまうのか?」 ということだった。
樋口氏は私が平成ガメラの頃から応援してきた監督だ(ガメラは特技監督)。当然ながら彼の初監督であるローレライも観た。残念ながらローレライは作品としては人間ドラマの表現やアニメ的なご都合主義等の問題があるものだったが、これからのエンターテインメント邦画の可能性を感じさせてくれるものとして十分だった。そんな才能のある人が何故あんなミスを? 映画やアニメのことに関しては私達より数十倍熟知しているはずの彼が何故? シナリオのデキがダメダメでヤケクソになったのか? 大作をまかせられたがキャパオーバーで肩に力が入り過ぎて調子が狂ったか? バカな偉いさん達に「ヒットさせたいから恋愛も入れてくれ!」と振り回されて混乱してしまったか? 時間が足りず見切り発車となったのか? 深まる謎……。いずれにしても、樋口氏を応援してきた私としては「ただ彼が監督としてヘボだった」という愛情のない感想で結論づけたくはないという思いはある。
辛い感想ばかりだが、見応えのあるところもあった。特撮シーンである。今回は樋口氏ではなく別の監督がやっていたようだが、樋口氏も特技監督である為、かなり目を光らせていたと思われる。辛口批判の中には「ハリウッドに比べればちゃっちい」と言う人もいるが制作予算の違いを考えれば、よくできていた方だと思う。(私個人的に気にいたシーンは桜島が爆発し、連動して霧島連山も噴火していたところか。私が宮崎出身なので…) ただ、品川の最新高層ビルが崩壊しているのに手前の築50年以上と思われるボロ屋が全く崩壊していない等の映像的チョンミスがちょっと多かったな。注意してほしかったぞ。(リアルにやっている分、そういうのって逆に目立つんだよな)
まぁ、しかし、あれだよなぁ……。樋口氏がこの映画で「何がやりたかったのか」は、分からんわけでもないけど、それらを「ことごとく外しているというところが分かる」というところが、観ていて一番シンドかったなぁ……。
最後に。
評判の良くない映画第1弾の「ブレイブ・ストーリー」、そして今回の第2弾「日本沈没」――どちらにも共通している欠点は、脚本と構成のマズさ。これだけはハッキリしているようですな。
【追記1】私の樋口氏に対する応援は、彼の作品を劇場で金を払って観るという形で実践しております。
【追記2】私は樋口氏と実際お会いして話しをしたことがある。某アニメ監督の結婚式の2次会でだ。(平成ガメラの時) 「これからもがんばってください。応援してます」との私の言葉に真摯な目で「はい。ありがとうございます」と答えてくれたことを今でも思いだす。あの目にウソはなかった。