去年から楽しみにしていた中島哲也監督の『嫌われ松子の一生』を観た。
(C)2006 「嫌われ松子の一生」製作委員会
監督・脚本:中島哲也/原作:山田宗樹/撮影:阿藤正一/音楽:ガブリエル・ロベルト、渋谷毅/主題歌:BONNIE PINK/出演:中谷美紀、瑛太、伊勢谷友介、香川照之、市川実日子、黒沢あすか、荒川良々、竹山隆範/2006年日本映画/2時間10分/配給:東宝
で、感想――
あ~よかった!私の期待をうらぎらなかったよ~! まさに『クリエイティブ』という言葉が頭をよぎった傑作。お見事!
去年、中島監督がこの作品を創るにあたって言っていた、『不幸を単に不幸としてみせるのではなく、エンターテインメントとして描きたい』という旨のコンセプトが私は気になって仕方がなかった。正直、原作は笑ってしまうほど救い様のない悲劇だ。それを一体どういう風に中島監督が料理するのか? どうやってエンターテインメントにするのか? それが楽しみだった。
そして彼は並々ならぬパワーと、彼が持つありとあらゆる表現テクニックを使って、邦画史上稀に見る『エンターテインメント悲劇』を創り上げた。いやぁ~、すごいっすよ。よくあんな映画が創れるもんだ。あらためて『作品って想像力で創り上げるもんだ』という、しごく基本的なことを思わせてくれましたよ。
しかし、救い様のない悲劇を緩和するために使ったコメディータッチの表現方法が、後半になればなるほど次第に笑えなくなり、逆になんともいえない『切なさ』をつくり出すとは思いもしなかった。(特に、松子の変な顔の写真がラストの方で悲しく見えてくるのにはまいった) この『切なさ』は原作にはない感覚のもので、中島監督が生み出した独自なものといえるかも。それは安直に原作の絵解きにせず、監督なり解釈で映像化したからこそ産み出されたのだろう。
主演の中谷美紀の演技に関してウマイとかヘタとかいう感想が出ているようだが、正直私は作品のパワーとテンポに圧倒されて、そんなこといちいち気にしてるヒマはなかった。強いて言うなら、あの異常なまでの作品のパワー、言い換えれば監督のパワーについてゆき、松子を演じきった中谷美紀の女優根性はたいしたもんだと思う。巷では二人の不仲説がたっていたが、中谷美紀本人が書いたメイキングエッセイ『嫌われ松子の一年』を読んだ限りでは、決してそんなことはないようだ。製作現場ではどこにでもある、ただのガチンコ関係だろう。
あと、感心したのは、ドラマ中に歌や踊りをシンクロさせるミュージカル的演出。あんなにセンスよくできる監督ってこの日本では今も昔もそうそういないんじゃないの? これって中島監督が常に音楽と映像のシンクロセンスを要求されるCM映像作家だからこそ、なしえた技なのかな?
――と、まぁ、ベタほめばかりだが、気になったところもなくはない。でも、書きません。面倒くさいから(笑)
ただ、この作品、ある意味斬新であるが故にアクも強くテーマも重いので客を選ぶかもしれない。『海猿おもしれぇ~し~』と感じたスタンダードなセンスのカップルにはあまり向いてないかも。 でも、観れば普通に感動できる作品だ。私の後ろにいたお姉さんは映画の中盤からずっとグズグズと泣きっぱなしだったし、その後ろのお兄さんもラストにグスッと泣いておられました。 私? 私は……ああいうラスト、昔から弱いんだよなぁ……。グスッ……。(ちょっと長かったけど)
とにかく、前作の『下妻物語』とは、また違った世界を披露してくれた中島監督の『嫌われ松子の一生』だった。楽しめた。監督の次回作がもう観たくなってきた(気が早いって)
ま~げてぇ~♪ の~ば~し~てぇ~♪ お星さまを~つかもう~♪
ま~げてぇ~♪ せのび~し~てぇ~♪ お~空に~とど~こう~♪
ち~さく~丸め~てぇ~♪ 風とおはなししよう~♪
お~きく~♪ ひろげてぇ~♪ お日様をあ~び~よ~♪
み~んな♪ さよなら~♪ ま~たあした会~お~う♪
ま~げてぇ~♪ の~ば~し~てぇ~♪ おなかがすいたらかえろう~♪
う~たを~♪ うた~って~♪ お~うちへかえ~ろ~♪
作詞:Nancy G. Claster (この歌って、昔の子供番組『ロンパールーム』の中の曲なんだそうな)
【追記1】客、入ってほしいなぁ。ああいうものを創れる才能ある監督にはチャンスを与え続けてほしいんだよなぁ。(実感をこめて……)
【追記2】この物語のテーマって、ある程度、齢をいっていない理解しずらいかもなぁ。若い人にはただのアホ女の転落劇としかうつらないかも。ある程度歳をとってると、『自分に素直に生きてゆくことと、すばらしい人生を送ることは別物』だということが実感でき、松子の生き様はその象徴で誰にでもおこりうる『明日は我が身』ということが最低理解できるだろうからなぁ……。『有為転変、憂うるなかれ。人生の妙その中にあり』…ってか。