「CRAZY BOY!!(クレイジーボーイ!!)」
――映画監督/ヴィム・ヴェンダース
ヴィム・ヴェンダースは『パリ・テキサス』や『ベルリン・天使の詩』で有名な映画監督である。
先の雑記にも書いたゴールデン街の『深夜+1』で私がよく飲んでいた頃の話――。
一人の客が『ヴィム・ヴェンダースが来てる!』と言いながら慌てて店の中に入って来た。聞けば、ヴィム・ヴェンダースが『夢の果てまでも』の撮影の為に来日し、ゴールデン街でロケをしているとのこと。隠れミーハーの私は早速やじ馬に変身。パッカラパッカラとロケ現場まで馳せると、巨大な撮影用のライトがまるでゴールデン街の恥部をさらけ出させるかのように辺りを明るくしていた。そっと店の影から撮影現場を除き見していると、スタッフと思わしき若い男が私の方へ小走りでやってくる。邪魔だから退け!とでも言われるかな? と思ったら彼は『見ていてもいいですが、そこでじっとしててくださいね』と言う。おっ、ずいぶんと優しいな、と気をよくしてしばらく見ていると、闇の中から神経質そうな顔をした外人の男がスタッフを引き連れて颯爽と歩いて来た。『あ、あれは!?』 そう、その神経質そうな外人がかの有名な世界的映画監督ヴィム・ヴェンダースだったのだ。私のミーハー心は躍った! すると、監督は私に気づいたのか、その顔を私の方へ向けると吐き捨てるように言った。
「CRAZY BOY!!」
そう言って監督は去って行った。『ガ、ガ~~ン!! の、罵られた……』 やはり、撮影現場を覗き見するのはマナー違反だったようだ。どうやら監督は私も含めてゴキブリのようにカサカサと現れる『野次馬ミーハー達』にうんざりしていたようだ。 『じゃぁ、なんで、”見ていてもいいから、じっとしてて”なんて心にも無いことを言ったんだよ~! スタッフめ~!』と愚痴ったところで後の祭り。
『ヴィム・ヴェンダースに罵られちゃったよぉ~ トホホ……』と、うなだれながら私は再び『深夜+1』へ戻った。その一部始終と傷心の想いを陳さんに報告すると、陳さんを筆頭に店の客全員から笑われてしまった――という、ちょっと情けない思い出のある『忘れられぬ言葉』でありました。