実は個人的にはノーチェックの作品だったのだが(軽めの企画もんだと思っていたので)、巷の評判や、井筒監督が某番組で満点をだすほどできの良い作品らしいので気になって早速観てみた。
監督:李相日(り・さんいる)/脚本:李相日、羽原大介/撮影:山本英夫/美術:種田陽平/音楽:ジェイク・シマブクロ/出演:松雪泰子、豊川悦司、蒼井優、山崎静代、岸部一徳、富司純子/2006年日本映画/2時間/配給:シネカノン
で、感想――
いやぁ! 評判通りのすばらしい作品だった!
ストーリーは昭和40年代の福島県いわき市の町興しとして作られた『常磐ハワイアンセンター』の誕生秘話に基づいたものだ。ハワイアンセンターの目玉であるフラダンスチームに夢をかける炭鉱町の女性達と、ダンス指導の為に東京から来た理由(わけ)ありのダンサー、そして、それらに反対する炭鉱町の保守的な人々が繰り広げる人間ドラマだ。
この作品、簡単に言えば『ウォータボーイズ』や『スウィングガールズ』同様の『最初は何もできなかった人々が努力して見事目的を成し遂げる』というタイプのものだが、例えた2作品と大きく違うのは、かなり生々しい『生活観』だろう。さびれゆく炭鉱町、貧しい生活……、ドラマのベースとなる生活の表現がかなりリアルだ。それがきちんと描かれているからこそ、フラガール達の成功が非常に説得力をもって観ている者の心をうつ。
あと、この映画でひときわ光っていたのだが、蒼井優演じる谷川紀美子の母親役を演じている、富司純子(ふじすみこ)の強烈な存在感だろう。この役者の存在がこの作品をビシッとしめたといっても過言ではない。それもそのはず。この富司純子、私のようなおじさん以上の者なら必ず知っている、あの往年の東映仁侠映画の大スター、『緋牡丹博徒シリーズ』の『緋牡丹のお竜』こと藤純子、その人であらせられるのだ。(女版、高倉健と思ってくだされ) 今ではすっかり初老になってしまったが、その気合の入った演技は衰えず、そこいらあたりの半端な役者なんかは長ドスで斬りすててしまう程の迫力だ。(実際、息子役の豊川悦治を完全にくっていた) それゆえラストのあのシーンは、かなりグッとくるものがあった(どんなシーンかはネタバレになるので言いませんが)
あと、蒼井優も、さすがクラシックバレーで鍛えたしなやか踊りで、ダンスシーンに説得力をもたせていた。ダンス指導役の松雪泰子もテレビのトレンディードラマでは見れない硬派な演技が光る。南海キャンディーズのしずちゃんもなかなか個性的でグッド!
もうひとつ、観終わって気づいたのだが、この作品、いったいだれが主人公だったのかがはっきりとしない。もちろんそれは悪い意味ではなく、それだけ一人一人のキャラの存在感を丁寧に描いた証拠ともいえる。監督・脚本の李相日(り・さんいる)の実力を感じさせる。
ただ、ラストシーン近くが、ちょっとお涙頂戴的な演出に感じられなくもないが、でも作品のできには影響はない。
良い作品だ。今年観た今までの映画の中で一番の作品は『太陽』だったが、それを抜いて一位となりました。(あくまで私の中ではね)
きちんと人間を描いてる映画が観たい人にはお奨めです!
【追記】夕張に引越してしまった少女の貧乏一家は強烈だったなぁ……。自分が小さい頃はけっこうあったんだよなぁ、あんな貧乏な家って(自分んちもそうだったし……) なんかシャレにならないって感じで、涙もんでした……。つぎはぎのコートは反則だよ~。