最近、外で仕事をしているせいか、以前に比べてBlogを書いている時間が減ってきた。で、たまに書こうかと思ったら、今度はSo-netさんが調子悪くて書き込めないと。しかし、So-netさんは調子が良い状態が3ヶ月続いたためしがないなぁ……。(もう、慣れたけどね)
それはそれとして――
以前から観たかったアレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』を観た。
英題:The Sun/監督:アレクサンドル・ソクーロフ/脚本:ユーリー・アラボフ/美術:エレナ・ズーコワ/音楽:アンドレイ・シグレ/出演:イッセー尾形、桃井かおり、佐野史郎、ロバート・ドーソン/2005年スイス=ロシア=イタリア=フランス映画/1時間55分
で、感想――
いやぁ~! 久しぶりに質の高い映画を観れて感動した。そして大変おもしろかった(もちろん、エンターテインメント的なおもしろさという意味ではなくてね)
この作品は1945年8月の敗戦日前後の昭和天皇の日々を、あくまで『公の天皇』ではなく『個人の天皇』という視点で淡々と描いた作品だ。題材が題材なだけに、まず日本の映画界ではあと30年は映画化できないテーマだろう。
まず、この映画はイッセー尾形の演技なしには語れない。演技……いや、演技というにはもの足りないうなぁ。以前から感じていたのだが、イッセー尾形って誰かを『演じる』という単純なものではなく、演じる対象の人物が持っている『気』を再現することができるという特殊な才能を持った役者だと思う。(まるで対象の人物が彼に憑依するかのように) だから私は、この作品で彼演じるところの『昭和天皇』が本物に見えてきて、まるでドキュメンタリーでも観ているかのような錯覚におちいってしまったのだ。恐ろしいほど淡々とし、一歩間違えば『ただの退屈な映画』になりかねないこの作品を最後まで緊張して観れたのは、そのせいもあったのだろう。
それと、この作品は『丁寧』だ。丁寧に昭和天皇ヒロヒトの孤独と家族に対する愛、そして『人間であるのに人間であってはならない存在』に静かに苦悩するさまを、性急にならず、ゆっくりと、優しく、まるで日本人以上のデリカシーをもってロシア人監督ソクーロフは描いている。彼が日本人ではなくロシア人であったからこそ客観という名の素直な視線で『天皇』と『日本人』を見ることができたのだろう。
実は、私、この作品のラストで何故か涙が込み上げてしまった。決して観客を泣かせるような作品でもないのに……。映画館から出てその理由を考えてみた。でも、はっきりとわからなかった。少なくとも、それは安っぽいイデオロギーからくるものでないことだけは確かだった。強いてゆうなら、それは、『すべての日本人から崇拝されつつも、実はすべての日本人の誰からも理解されない天皇という名の一人の人間の孤独』に対する感傷なのかもしれない。
ラストシーンの短いやりとりは見事だった。かなり心に響いた。
今年観た今までの映画の中で一番の作品だった。
【追記】天皇の孤独を唯一理解できるのは皇后と皇太子達だけであろう。それ故、スタッフロールの背景の空に解放されたかのように自由に飛んでゆく3羽の鳥が印象的だった。