宮部みゆきさん原作の劇場アニメ『ブレイブストーリー』を観た。私は原作を読んでなかったので先入観なく観れた。


 監督:千明孝一/脚本:大河内一楼/原作:宮部みゆき/製作総指揮:亀山千広/音楽:ジュノ・リアクター/キャラクター原案・デザイン・総作画監督:千羽由利子/声の出演:松たか子、大泉洋、常盤貴子、ウエンツ瑛士、今井美樹、伊東四朗、樹木希林/2006年日本映画/1時間51分/配給:ワーナー・ブラザース映画


で、感想―― (辛口です。映画に好意的な方は読まない方がいいでしょう)



 


さすが、デジタル技術を取り入れることに前向きなアニメ制作会社『GONZO』だけあって、その映像はなかなか見応えがあるものだった。しかし、肝心要のシナリオ・構成が、まるでTVシリーズのアニメを劇場用に再編集したかのようなあわただしさで、せっかくの原作と映像の良さを台無しにしていたような印象を得た。


原作の宮部みゆきさんという小説家は『何気ない日常の出来事や言葉を使って、人の心のヒダを分かり易く語る』のがうまい人だ。私は仕事でご本人ともお会いして話しをしたことがある。そのときの宮部さんとの何気ない世間話からも彼女の世間や人間に対する視線は高いところからではなく、常に人と同じ高さであることは肌で感じることができた。私はこの『ブレイブストーリー』の原作は未読だが、おそらくこの小説も少年達の傷つき、孤独な心をRPGの世界を借りて等身大に語ろうとしているのではないかと思われる。決してRPG的冒険奇譚自体を描くことが目的ではなかったのではとも。


私は原作とそれを映画化した作品が必ずしも一緒である必要はないと思っている。映画監督が自分の感性で原作を解釈し、それを映像という形で自由に再構築することが原作の映像化の醍醐味だと思う。ただの原作の絵解きほどつまらない映画はない。ただし、自由に描くといっても、それでも『決して外してはならないポイント』はあると思う。それは原作が持っている『テーマ』だ。だから、映画監督は、そのテーマを映画として表現する上で、時間的、技術的に難しいと思われるのならば、原作自体をアレンジしてもよいと思っている。それが原作を解釈し、映像という形で再構築する、つまり映画化するということのポイントであり、原作に対する最低限の礼儀なのではないか? と思っている。


今回の劇場アニメ『ブレイブストーリー』は、その辺りのアレンジ力が非常に弱かったと思う。監督や脚本家の力量のなさか? 日本一のベストセラー作家である宮部さんの原作に脚本家がびびったのか? いずれにしても、この脚本は失敗だと思う。とくに、最後のシーンで、主人公達にセリフで心情やテーマを一気に早口でしゃべらせて終わらせるって、素人レベルじゃない? なんの為に『映像』という方法を使っているのかわからないし、宮部さんが『大切にしていたこと(テーマ)』に対しても失礼なんじゃない?


う~む――。そう考えると、宮崎駿氏や、中島哲也監督の『原作を映像で語る』テクニックは大したものなんだなぁ…とあらためて感心した。


『映画版・ブレイブストーリー』――結論から言えば、『見せること』はうまいが、『語ること』がいまいちな作品だったという感か。やたら力作だっただけに、そこんとこが残念だった……。


 


【追記1】ちなみに、私は宮部さんご本人から『原作と映画が全く同じである必要はない。むしろ、映画監督の解釈による新しい作品になる方が原作者としては楽しみ』という意見をお聞きしたことがあることを付け加えておきます。


【追記2】大沢オフィスのお三方(大沢在昌、宮部みゆき、京極夏彦)が、ちょい役で出演されているそうだが、ちょっとわからなかったなぁ……。



と思っていたら、大沢オフィスのサイト『大極宮』に書かれてありました。


・大沢…幻界序盤に出てくる四体の石像のうち「知恵が~」と言うやつ。


・宮部…サーカス団の少年。(パック)


・大沢&宮部…終盤のミツルの回想シーンで「ハッピーバースデー♪」と歌ってます。


・京極…ハイランダーのメンバーで、カッツの側近。(トローン)


――だ、そうです。3人とも演技が上手でぜんぜん気づかなかった。

投稿者 mori-game

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