DIGRA JAPANの第1回定例会議に行ってきた。DIGRA とは『日本デジタルゲーム学会』の略称で、日本国内におけるデジタルゲーム研究の発展及び普及啓蒙を目指し設立された団体だ。会場は東大の工学部。会長の馬場章氏がここの教授であることからこの場所になったようだ。実は私、東大の中に入るのはこれが初めてだ。正直、一生縁がない場所だと思っていたからちょっと嬉しかったりなんかして……(苦笑)。


  



正門から奥へ向かって歩いてゆくと安田講堂が建っていた。『これがあの安田講堂かぁ……』 私は小学校6年の時、あの安田講堂事件(写真【追記3】)をテレビの生中継で食い入る様に観ていた。東大を占拠していた全共闘の学生達と、それを封鎖解除しようとする警視庁・機動隊との戦いの最後の舞台。それがこの安田講堂だった。あれから37年たち、私の目の前に建つ本物の安田講堂はかなり老朽化していた。まるで、あの事件を刻み付けたモニュメント、いや、60年代の学生運動の墓標のようにも見えた。講堂前の庭の木陰で2匹の老いたネコがくつろいでいた。この場所で生きてきたノラネコだろうか? 日本一の学府の学生達からエサをもらって生きてきたのなら、それはそれで名誉なことかも?(笑)


さて、DIGRAの第1回定例会議の感想だが、まだ方向性が定まらぬ『手探り状態』という印象だった。そのせいか質疑応答の場においても質問者も回答者もいまいちピントがさだまらないものだった(私も含めて…)。しかし、そんな状況の中、常にピントを合わせようと軌道修正的な発言をされていた方がいた。その方、会長の馬場氏であった。馬場氏は『日本のゲーム研究は産学一体の形をとらないと海外と比べてその独自性を築くのが難しい』また『ゲームをプレイするユーザーを観て研究する気はない。自らプレイすることによって、初めてゲームという学問の研究がスタートする』という旨の意見をおっしゃっていた。どうやら氏は閉鎖的なアカデミック空間の中で研究される気はあまりないようだ。その為にも産業(ゲーム業界)との強い結びつきを強化したいという氏の考えは『まさに、その通り!』と私が賛同できるものだった。


しかし、残念ながらゲーム業界は今だ『経験と勘』という内省的な根拠によるゲーム論理や、『好き嫌い』という感情的作品評価、『売れた売れない』という結果論的商品評価をベースとする閉鎖的な村社会である。DIGRAが希望する、業界からのゲーム開発における資料の開示や、アーカイブ資料に対する協力は、今の業界の現状においてはかなり難しいものになるだろう。(企業秘密にも抵触し易いしね) ただ、そんな業界でも文化的協力に全く無関心とは考えれらない。現在の商品(ゲーム)に営業的に影響しない過去の商品に関するものならば資料開示協力もありえるかもしれない。でも、そのような条件で資料開示された昔のゲームばかりを研究したところで学問として意味があるのか? と言うのも、テレビゲームというメディアは固定されたものではなく、その技術、ゲーム(遊戯)性、ユーザー意識ともに常に変動してゆく『生き物』であるからだ。ゲームが『生き物』ならば、今の商品を研究してゆくこともポイントとなる。企業と学会。お互いのメリット、デメリット。そこをどうやっておりあいをつけてゆくか? 馬場氏はそこのところを現実的な重要課題とし、企業との歩み寄りを模索しているのかもしれないと私は(勝手に)思った。そう考えると、DIGRAが、ゲーム教育機関(専門学校)の講師に対して少なからず好意的なスタンスなのは、それらの講師は『業界と学会との橋渡しとなる『何か』を持っている』という期待があるからかもしれない。もし、そうなら、それは期待しすぎというものだろう。何故なら、ああいう教育機関は業界に対しては『生徒をいかに就職させるか』がその教育の目標となり、自ずと講義の内容もアカデミックなものというより『職業技術』を中心とした実践的なものになっているからだ。


さてさて、DIGRA JAPAN―― こういう団体はゲームを文化の歴史の中に位置付けるための強力な後押しになってくれる可能性がある。それはゲーム業界にとっても金では換算できないメリットになるはずだ。だから、願わくばゲーム業界は目先の利益ばかり考えず、DIGRAのような組織に賛助、協力してあげ、そして歴史的な時間軸の中で相互の文化的発展を育んでいってもらいたいと思っている。……って、どっかの偉そうな二流文化人みたいな意見だな(苦笑)


とりあえず、私は『学問すること』はダメみたい。現場で創っていることが性にあっているので、現場からDIGRAのような組織の動きを、現場の他の人間に言い伝えることで応援してゆこうと思う。


 


DIGRA 日本デジタルゲーム学会のサイトは →こちらから


月一で定例会をやるようです。(非会員の方は1000円で参加できます) 関心のあるかたは行ってみられては? 特に業界の方はいかが? 


【追記1】ちなみにDIGRAの会長である馬場氏、その昔、東大ではじめて『テレビゲーム』に関する講義を行いそれが学長にばれ始末書を書かされたという過去があるらしい。『東大でテレビゲームの講義をするとはなにごとだ!』という理由で。(もちろん今の東大はおたく文化に対して寛大になってきている。なにせ岡田斗司夫氏も講義をする時代だから) あと、『ゲーム脳』という日大の森教授の理論を『笑止の至り!』と斬って捨てた人でもある。これはお見事!


【追記2


『学問が蓄積され、進歩するためには?』


1、学問は論理的または経験的根拠の上に立てられる。


2、学術的言説は、正確な言葉によって表現されなければならない。


3、学問が進歩するためには、過去の研究と他の分野との連帯連携が必要。


4、学問は面白くなくてはならない。


(日本デジタルゲーム学会・第1回月例会より)


 【追記3】安田講堂事件の当時の報道写真


  

投稿者 mori-game

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